遺言書について、「財産がたくさんある人だけのもの」「会社経営をしている人だけのもの」とお思いの方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、令和3年度の司法統計によれば、遺産分割事件約7,000件の総数のうち、約3割の2,279件が1,000万円以下の財産の分割に関わる事件です。さらに、5,000万円以下にまで広げてみると、全体の7割を超える5,316件にも及びます。
このように見ると、財産の額が少ないからと言って、遺産分割で揉めないというわけでもないことが分かります。静岡市 葵区、清水区、藤枝市、焼津市県内だけでも、年間300件以上の遺産分割に関する事件が申し立てられています。相続争いは、多額の財産をお持ちの方だけの問題ではありません。
こちらでは、遺産の分割を円滑に行うための遺言書の残し方についてご説明いたします。
活用1:希望通りの遺産分割を行うための遺言書
遺言書は、故人が生前残した「最後の意思」そのもの。ゆえに、遺産分割手続きにおいては、遺言書による指定が最優先されます。したがって、遺言書において、ご自身の財産を誰に渡したいのか、どのように渡したいのかを記載しておくことで、希望通りの遺産分割を実現することが可能です。
以下のようなご希望をお持ちの場合には、遺言書での指定が有効です。
- 自宅不動産を同居の妻に残したい
- 自分の介護に関わってくれた子供に財産を多く残したい
- 特定の方に会社を継いでほしい
- 遺産を慈善団体に寄付したい。
- 内縁の女性に財産を残したい
遺言書は、方式さえ民法上の要件を満たせば、その内容は比較的自由に定めることができます。しかし、どんな内容の遺産分割でも実現できるわけではありません。遺言書での相続割合の指定が、一定の相続人に保証された相続財産の最低割合(遺留分)を侵害したものになってしまうと、相続人同士の揉め事に繋がってしまうおそれがあります。遺言書の作成時には、遺留分に配慮した遺産分割割合を指定するように注意が必要です。
活用2:遺産分割協議を回避するための遺言書
故人が遺言書を残していない場合や、遺言書に記載のない財産が残されていた場合、相続人全員で、「遺産分割協議」を行い、財産の分割方法について決めなければなりません。しかし、相続人が多数いる場合や、面識のない相続人同士がいる場合、相続人同士が不仲な場合など、意見がまとまらず、いつになっても遺産分割がまとまらないケースは少なくありません。
遺言書ですべての財産について、帰属先を定めておくことで、相続人全員での遺産分割協議を行うことなく、遺産分割を終えることができます。そのためにも、遺言書を作成する際には、財産調査をきちんと行い、抜け漏れのない財産目録を作成するようにしましょう。
親族同士の関係が良好な場合でも、急遽大きな財産が手に入るチャンスを前に、相続争いに発展してしまったり、関係が良好であっても、相続人のなかに未成年者や認知症の方がいるために手続きが円滑に進まなかったりと、遺産の帰属を遺産分割協議に任せてしまうことには、大きなリスクを伴います。
残された家族や親族が、こうしたトラブルに直面してしまう事態を回避するためにも、お元気なうちから、きちんと遺言書作成の準備を行うことが大切です。